EDOX

各界の第一線で活躍する著名人へのインタビューによる連載コラム“エドックス ラヴァーズ”。プロフェッショナルな仕事へのこだわりや、彼らの愛用ウォッチなどに迫ります。今月は、2012年ロンドン五輪で立石選手と日本チーム最年少コンビとして銅メダルを獲得し、パラリンピック競泳男子・山田拓朗選手も銅メダル獲得に導いた、競泳プロコーチ・高城直基氏です。

選手からコーチへの転身

競泳のコーチになられたきっかけは何ですか?

コーチになるつもりは最初全然なくて。以前、競泳選手をやっていたのですが、水泳を離れたくなって辞めたんです。ある日お世話になっていた恩師から、暇なら子供達に教えてくれないかと声を掛けていただき、最初はアルバイトとして軽い気持ちで始めました。それが意外にも楽しかった。それでも、当時別の仕事で渡米準備をしていましたので、職業としては全く考えていませんでした。ところが、9.11テロを機に、渡米は立ち消えになってしまって、それから、アルバイトから社員になってコーチとして上京しました。結局水泳から離れられない運命だったんですね。

高城直基イメージ1

立石選手との出会い

担当された立石選手(ロンドン五輪で銅メダル獲得)との出会いは何ですか?

2010年の2月頃、上司から大学で第二登録だけだからと立石選手を担当するよう指示があって。立石選手の名前こそ知っていましたが、どんな選手か、今後どんな試合があるか、全く情報がないまま2010年3月のパンパシフィック選手権の選考会前あたりから引き受けたんです。まさかがっつり担当するとは思ってもみなかった(笑)。最初は結果がふるわなかったので、自然とキツめのメニューを本格的に開始した辺りですね、二人三脚で進み始めたのは。

立石さんにとって高城コーチはどんな存在ですか?

高城コーチは、4月の日本選手権に向け、モチベーションが中々あがらずにいる僕と一緒になって親身に考えてくれたんです。それまでのコーチから“教えられる”というスタンスと、まるで違う感覚でした。基本的に皆がやっていることをしていては勝てないと考えている僕にとって、選手に寄り添ってくれる高城コーチは、プライベートなことも話せる先輩です。友人といえどもここまで何でも言える人は少ないかもしれません。

選手一人ひとりと対峙する

選手のモチベーションを上げるためにやっていることとは?

コーチとは、選手が気持ちよく練習に取り組めるように、その選手の性格や行動パターンや個性に合わせてカメレオンのように合わせていくものだと思うんです。選手にもよりますが、トレーニングがコーチの指示通りにやらなくてはならない“義務”になると、選手も大人ですので面白くないでしょうし、モチベーションも上がりません。もちろん、知識のないジュニア選手には昏々と説明することもありますし、意見を求める傾向のある女子選手には必要な時だけアドバイスして「いつも見てるよ」と安心させてあげます。基本的にスピードも、持久力も、自分の思い通りに自主的にする方が伸びると考えています。

指導者として難しいところはどこですか?

コーチは理論的に説明しなければなりませんが、理論だけでは人は動きません。相手が人間なので正解が一つではないし、個性を引き出すことが大事です。そこが一番難しいところであり、面白いところでもあります。選手の性格や行動は知っていた方がアドバイスに活かしやすいですから、できるだけ選手の深いところまで理解したい。自然とプライベートにまで話が及ぶのもそのせいかもしれません。

高城直基イメージ1

尊重と対話と、アスリートファースト

普段コーチとして意識していることはありますか?

アスリートファーストでいたいと思っていますね。日本は教えるコーチが偉いという風潮がありますが、あくまでやるのは僕でなく選手ですから、選手を尊重したい。僕はコーチとしての勉強はあえてしていません。知識を入れようとすると、選手に対して上から目線になってしまいますので、分からないことを受け止めて、選手と一緒になってベストの方法を考えます。勉強するより、選手と話すこと、対話を大切にしています。

厳しさだけじゃない、休ませるのも仕事

選手のモチベーションを継続させるコツは?

厳しいトレーニングや栄養管理も必要ですが、時には休養も必要です。選手にとって休むことは勇気がいるものですが、ベーシックメニューを消化できたら、体調の悪い時は思い切って+αをカットします。普段よく見ていると選手の少しの変化に気づくものです。以前の上司が気遣いのあるとてもいい人で、ストレスが皆無で職場の雰囲気もとてもよかったんです。朝は誰より早く出社して、夜は部下が帰りやすいように早く帰るような人でした。その上司の立ち振る舞いは僕に少なからず影響を与えてくれたと思います。


高城直基
Profile

日本大学卒業後から13年間、競泳プロコーチとして活動。2010年よりロンドン五輪競泳平泳ぎ銅メダリスト立石諒 専属コーチを務め、2012年ロンドンオリンピックにて立石と日本チーム最年少コンビとして銅メダルを獲得。高城自身も小学6年生から全国JOに出場し、全国中学5位入賞・全国JO3位入賞等の入賞経験を持つ。公認スポーツ指導者として数多くの表彰もされている。

Photograph:  Yoshinori Eto
Special Thanks: GSPR