各界の第一線で活躍する著名人へのインタビューによる連載ページ“エドックス ラヴァーズ”。
プロフェッショナルな仕事へのこだわりや、彼らの愛用ウォッチなどに迫ります。
今月は、アメリカで最も著名なクラブ「アポロシアター」で最高記録9大会連続優勝し、マドンナの世界ツアーやPVでも活躍した、プロダンサー・TAKAHIRO氏です。

心のどこかで自分を信じていた

ダンスを始めたきっかけは何ですか?

18歳のとき、テレビで風見しんごさんの何とも不思議なダンスをみて衝撃を受けました。当時ブレイクダンスが流行っていて、アクロバットダンスやロボットダンスなどの“静と動”が融合した動きに魅了されたんです。元々、身体も大きい方ではなかったですし、特にスポーツが得意ということもなかったので、潜在的に肉体への憧れがあったのかもしれません。素直に「カッコいい!」と思いましたし、「どうしてあんなにクルクル廻れるんだろう?」「どうして思い通りにできないんだろう?」「こんな僕でもできるのかな?」と好奇心が刺激されました。単純に、自分にもできるのかどうかやってみたかったんです。そして、心のどこかで「きっとできるはず!」と自分を信じている部分もありました。最初は、大学の小さなサークルに入って、独学で体育館裏や廊下で地味に練習していました。何かを表現したいという想いは、そのずっと後になってからでしたね。

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過去のすべてを肯定することができた瞬間

なぜニューヨークへ?

HIPHOPカルチャーの頂点であり、マイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーなどのビッグスターを輩出した、プロへの登竜門「アポロシアター」で“アマチュアナイト”というコンテストに挑戦する道があると知って、単身渡米しました。気に入れば惜しみないスタンディングオベーション、気に入らないと容赦ないブーイングという、シビアで目の肥えた観客の前で踊るのは、やはり勇気がいりました。

アポロシアターで優勝した時どんな心境でしたか?

優勝を果たして感じたのは、“周囲の見る目は変化しても、自分の実力や現実が変化するわけではない”ということ。自分を信じながらも、どこか不安や様々な想いを抱えながら練習した日々も全部意味があったんだ、と初めて過去のすべてを肯定することができた瞬間でした。
未来が開けた喜びと、未知への扉を開いてしまったドキドキ感と同時に、責任も生まれました。周囲の評価と、当時の自分との間に少なからずギャップを感じて、もっとホンモノにならなくてはと。その理想と現実のギャップを埋めるため、ヒップホップやタップ、バレエ・・・様々なダンスの基礎を身につけるため必死になってスクールで学んだのも、優勝後のことだったんです。

未知への扉を開けた瞬間、拡がっていく可能性

プロフェッショナルとは?

まず、経済的に生活できること。そして、期待を超えるレスポンスを与えられること。 実は、日本のダンス人口は小学生~社会人まで非常に多いのですが、いわゆるダンサーズドリーム(夢)を叶えている人はほんの一握りです。幸いにも、僕はダンスを通して、ダンスコンテストの審査員、本の出版、雑誌やテレビ、教育・・・と思いもよらない経験をしたり世界が拡がっていくのを感じているので、先頭を走るうちの一人として、後輩達にも、ダンスをすることで沢山の可能性や選択肢を増やしてあげたいですね。

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イイものというのは、ここまでと思うその先にあるもの

普段大事にしていること、意識していることはありますか?

“粘る”ことです。夢も、創ることも。イイものというのは、ココまでと思うその先にあるものだと思うんです。だから、僕は徹底的に粘ります(笑) 活動テーマとして意識しているのは、move the sense, move the heart・・・つまり、踊ることで人々の感覚(sense)を刺激し、心(heart)を動かしたいということ。ダンスは人々の生活にトキメキや色彩を与えてくれるものです。
ですから、僕が初めてダンスに衝撃を受けたように、観てくれる人に「わっ!」という驚きや、感動を与えたい。まだ道半ばではありますが、僕のダンスはそういうダンスだと思っていますし、これからも追及していきたいです。

たった一瞬のために、積み重ねていく歴史

TAKAHIROさんにとって時間とは?

ダンスのショータイムは約2~3分、その限られた時間の中にそのすべてを集約します。たった1つのショー、たった一瞬で人々の心を掴むために、10年も20年もかけています。進み方は少しずつだし時間がかかるものですが、その積み重ねが実を結ぶ。そういう意味で、“瞬発”であると同時に“歴史”ともいえるのではないでしょうか。


TAKAHIRO (上野隆博) Profile

http://www.topcoat.co.jp/artist/takahiro/
東京都出身。18歳の時に独学でダンスを始め、2004年に23歳で単身渡米。05年米国「Apollo Amateur Night」コンテストに出場、年間ダンス部門1位を獲得。翌年同コンテストTVシリーズで番組史上最高の9大会連続優勝記録を樹立し、米国プロデビュー。07年日本での活動を開始、世界陸上大阪大会の開会式にて振付を行う。『Newsweek Japan』誌の「世界が尊敬する日本人100人」(07年)に選出。09年にはマドンナの世界ツアーやPVに参加、アルバムJapanプロモーション総合演出も担当。現在では、ミュージカル、ダンス作品、アーティストPV、TV番組の振り付けや演出など、ダンスをフィルターとした様々なエンターテインメントを制作。大阪芸術大学 客員准教授も務め、ダンススクールでのレッスンや講演、ダンス教育にも力を注いでいる。

Photography: Hajime Kamiiisaka
撮影協力:TOPFIELD DANCE CENTER
衣装協力:ミズノ